おどうぐばこ

好き勝手あれこれ。だいたい大衆演劇のはなし。

喜劇と悲劇は紙一重~「幽霊貸屋」から~

ひっそりのんびり趣味で書くブログなので、ここ3日ほど急にアクセス数が増えてびっくりしてます。座長大会後だからでしょうかね?ええ、行っておりません…!

先日口上でお話されてたのですが、収録が入ったそうで時期などはわかりませんが後々販売するようです。


さて、大会とは無関係な記事の更新です(笑)

先日観た「幽霊貸屋」についてのあれこれについて。


※ネタバレ含みます

※お芝居なので写真は口上のみ

※レポというか私の勝手な感想


今月観た章劇の「幽霊貸屋」。貼り出しには「お楽しみ狂言」とあり、劇団からみた分類では喜劇扱いなのかなと感じました。原作は山本周五郎の小説で大衆演劇に限らずあちこちで芝居として上演される滑稽話の一つ(とされているらしい)。

平易にいえば、ダメ旦那が幽霊騒ぎを経験して改心、めでたしめでたし!なストーリー。でも視点を幽霊側に変えたら、喜劇でなく悲劇なのだと強く感じました。

 

「幽霊貸屋」あらすじ

弥六(瀬川伸太郎)は仕事もせずなまけてばかり。妻のお兼(梅乃井秀男)は「自分がそばから離れたら弥六は改心するのでは」と考え、涙ながらに里帰り。それでも仕事をしようともしない弥六の家へ、町で弥六に惚れたという美しい芸者の幽霊・染次(澤村蓮)が「あなたは働かないままでいいから女房にしてくれ」とやってくる。二人は夫婦となるがお金がなければ家賃も払えない。そこで染次が考えた商売は幽霊を貸しだすというものであった。

--------------------

f:id:isandat:20151022152923j:image

芝居後口上の蓮座長。芝居中かわいかったのに完全に男性に戻ってる。格好さえ変えれば若手実業家の講演会みたいな表情とポーズ。

 

以前蓮さんの女形芝居を観たとき、声が低くてドスがあって、失礼ながら芝居の女形は…と思ったことがありました。ところが先日久々に見た女形芝居は声色に無理がなく「あぁ男の声だ…」なんて思うことはありませんでした。そして何よりいつも以上に美人でかわいく見えたんですよね。弥六への軽口もいい女っぷりがすごくて。だからこそ、変にそちらにも感情移入してしまったようで。

 

男に騙され捨てられた怨みを持ったまま死に、「成仏なんてしてやるもんか」と幽霊のまま彷徨っていた染次。そのあと旦那になった弥六にはとても献身的に尽くす。酒や料理を旦那のために持ってきては、旦那のために自分の人脈(霊脈?)で幽霊仲間を集め商売をはじめる。「浮気したら呪い殺しちゃうからね」っていいながら、旦那を大切に想っていた染次。若い娘の幽霊に言い寄られている場面を見た染次はカッとして首を絞めて弥六を殺そうとしてしまいます。(成仏してしまう)弱点だからお鈴だけは鳴らさないでね、と聞いていた弥六は自分の身を守るために必死にお鈴を鳴らし、染次は抗えず成仏。

 

あんなに尽くしたのに。二人で楽しくやってたのに。染次が消えたら丸くおさまったような雰囲気なんだもんな。雇っていた幽霊たちの話を聞いた弥六は「まずは生きてなければ何もできない、生きているうちになんでもやっておくべきだ」と怠ける考えを改めはじめていましたし、この後改心してお仕事もするようになると思います。

 

人間側からみれば、幽霊におびえたダメ旦那が改心した滑稽話。幽霊の染次側からみたら、文字のごとく身を引き裂くような恋愛悲劇。

 

誰を主人公にするか、誰の視点にするのか。喜劇と悲劇は紙一重ですね。