おどうぐばこ

好き勝手あれこれ。だいたい大衆演劇のはなし。

【スーパー兄弟】人三化七、人零化十 ~情炎地獄より~

 
——— 愛しい恋しいお糸を抱いて、 堕ちて行こうぞ情炎地獄 ———
 

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△龍美麗総座長(スーパー兄弟) 
 
先月6月に篠原演芸場で観た、スーパー兄弟の『情炎地獄 お糸新吉』。
報われない主人公の新吉を演じた龍美麗総座長の演技力が怖いほどに光っていました。
備忘録として残しておきます。
※台詞はニュアンスで書いています。
※ネタバレあり
 

 

 
≪『情炎地獄 お糸新吉』あらすじ≫ ※固有名詞は当て字/敬称略
 振袖火事により燃え盛る炎の中から近江屋の娘・お糸(北條めぐみ)を救い出した奉公人の新吉(龍美麗)。 「助けたら店をつがせ、娘と夫婦にさせてやる」という店の主人の言葉と引き換えに、顔の右半分はひどい火傷を負ってしまった。 その容姿から、町では「人三化け七、化物面」と噂され、店の中でも悪口三昧、懇意であったはずのお糸でさえも冷たくあしらう始末。 それでも変わらず接してくれるのが、共に長く奉公している友人(三代目南條隆)であった。
 
振袖火事から一年後、江戸の活気を取り戻そうと盆踊りが行われるある日のこと。 お糸は良い仲になった大問屋の若旦那(南條勇希)を店へ連れてくる。そこへ外から戻った新吉は、自分がお糸に贈ろうとしていた反物と同じものを若旦那から受け取っていることに気づく。それでも受取ってほしい新吉と拒否するお糸。見かねた若旦那が間へ入ろうと揉み合いになったところを主人にみつかり、暇を言い渡されてしまう。
 
まさに絶望のどん底に落ちた新吉のもとへ、故郷から息子の祝言を楽しみにやってきた母親がやってくる。息子を想い、主人に陳情するも振り払われた勢いで額を柱に打ち付け、正気を失ってしまう。空を見つめ、立派になった息子と花嫁の姿を追う母。 言いしれない悲しみと怒りに震える新吉を、唯一の味方である旧友は「あとは任せて男の錦を飾ってこい!」と送り出す。
 
手にした小刀を見つめる新吉に、様々な声が振りかかる。 自分を噂する町の声、共に奉公してきた仲間の声、信じていた主人の声、立派になった息子を喜び、狂ってしまった母親の声、そして自分を蔑むお糸の声———刃に写った自分の顔を見つめて泣いて笑った新吉の瞳は迷いを無くし、いよいよ本物の化物になってしまった。
 
盆踊りで賑わう会場を狂った姿で走り回る新吉。目に入った人間はすべて斬り殺してゆく。逃げていたお糸をやぐらの上に見つけ、揉み合いの末に腹を一突き。 息を引き取ったお糸を腕に抱き、自らの腹にも刃を突き立てる。
 
「愛しい恋しいお糸を抱いて、 堕ちて行こうぞ情炎地獄 ———」
 
 
  
何が凄かったって、美麗さんの演技ですよ。
狂ってしまう前は憎めないかわいらしいキャラクターでした。お糸に声をかけたいけどどうしていいのかわからない、贈り物も何をあげたらいいのかわからない。友人に逐一相談してオロオロして。 迷いなく火の中に飛び込んだ男気はどこへやら、かわいらしいヘタレキャラの新吉。
そんな彼だからこそ、怒りも悲しみも耐えて耐えて耐えたタガが外れて爆発してしまったのかな。瞳に正気が宿っていなくて、人を刺しながら大声で笑う狂人が恐ろしくて仕方がありませんでした。
 
そしてなにより、狂って恋敵の若旦那をめった刺ししながら大笑いしてたのに、直前まで化物の目だったのに、お糸を刺した一瞬だけ元の新吉が垣間見えたような。開きっぱなしだった瞳孔がしゅんと縮んで、人間の色が見えました。
しかしそれも一瞬で、自分の腹を指すときにはもう化物の瞳に逆戻り。 一瞬だけとはいえお糸へのかつての新吉の情が見えたことでぎゅっと胸が詰まりました。
 
憑依型って本当にいるんだな、って圧倒されてしまいました。何回みてもびっくりしてしまいそう。
 
 
 
そうそう、美麗さんのブログをみて、お化粧もこだわってるんだな~と再認識。

これ↑は別のお芝居についての記事ですが、情炎地獄のときも白のつけまつげに白いカラーコンタクトでした。バッドエンドだからなのかな?

 
 
近江屋の主人の複雑な心情や、新吉の母親の悲痛な想い、クライマックスの魅せ方など他にも見ごたえの多い芝居でした。
数日思い出しては引きずってしまうほど。
 

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まああれですもんね、美しさが人外みたいなとこありますもんね、うん。
 
 
 
来年1月には横浜の三吉演芸場、そしてその後も篠原演芸場、浅草木馬館と関東に来ることが発表されています。
またすごいものと出会えることに期待して待とうと思います。
 
関東公演おつかれさまでした!!