おどうぐばこ

好き勝手あれこれ。だいたい大衆演劇のはなし。

【2015年】私的ベスト芝居5つ

随分とサボってしまいましたが、新年あけましておめでとうございます!

11月以降はあまり観に行けませんでした^^;


と、いうことで。今更ですが私的2015年芝居ベスト5を決めたいと思います!
(とても長くなりました……)


「ほととぎす」新生真芸座

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(舞踊ショーより。縫い物をしている仕草)

序幕は台詞なしの身振り手振りだけで乳飲み子(孝吉)を奪われた実母がその後尼寺でトラブルの末に人を殺めてしまう場面が演じられたのですが、改めて哀川昇座長の身体表現力の凄さを感じました。

そして辛く当たる継母役の大倉栄子さん。
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孝吉に酷くあたるときは本当にイラッとさせられるのに、実の親子が再会してしまったとき「親子名乗りはさせない」と言ったことで不思議と一瞬でその気持ちに想像がつきました。死んだ婚約者が他所で作ってきた子供を見つけた時どんなに惨めで悲しい気持ちになったことか。形見のように大切にしたい想いと憎らしさがぐちゃぐちゃになっちゃったんだろうな、と。説明台詞なしにしっかりと女の切なさがひしひしと伝わってきました。

そして何と言ってもそんなご両親の血を引く3代目ター坊の演技力。
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昇座長と栄子さんと渡り合える演技は本当にすごい。これからどんな風に成長していくんでしょうか。



「へちまの花」劇団都

喧嘩屋五郎兵衛や丸山哀歌など、かなり評判の良いお芝居は観られなかったのがとても残念でした。私が観られた中では「悲恋の雪」と「へちまの花」が強く印象に残っています。
他の劇団でもやっている「へちまの花」ですが、初めて見たのが8月の劇団都でした。ぼんやり聞いた話で「喜劇に違いない!」と思い込んで油断していたので号泣。
およねちゃん(藤乃かな座長)は器量は良くないし頭も悪い。でも人の気持ちを考えられる素直で優しい子。そしてそんなおよねちゃんを親代わりになって守ってきたお兄ちゃん(都京弥座長)。

惚れたと言われたことが嘘だとわかったとき、「普通の女の子みたいに夢みたかった」と切ない表情で簪の飾りに触れ、お兄ちゃんの顔をみてにーっこり笑うおよね。不細工だけどお前には愛嬌がある、と母に言われ、自分が笑っていれば兄もみんなも笑ってくれる。だから自分のことのように怒り悲しむお兄ちゃんに笑顔をむけて「大丈夫だよ」と言い聞かせる。

ベースにあるのは三河家諒さんから教わったものだそうで、「(教わるまで)おもしろおかしな化粧をする『へちまの花』しか見たことがなくて良さがわからなかった」といつかの口上で仰っていましたが、まさに"人情"喜劇を観させていただきました。



「泥棒哀歌」桐龍座恋川劇団

「この役者さんはすごいな、人を惹きつけるな」と思う要因の1つとして、私が上げるなら"呼吸ひとつだけで客席の空気を変えることができる"ことです。
この芝居でまさにそんな瞬間があって、全く他人で共通点もない舞台上の主人公と呼吸がシンクロするなんて初めてでした。

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(二代目恋川純座長)
泥棒一家の若い者が、ある盲目の女性の勘違いから女性の実子に成り代わり親孝行して生きていくことを決めた場面。閉じた部屋から親子となった二人の声が聞こえる。その会話を聞いてハッとなる主人公(二代目恋川純座長)。あの女性こそ幼い頃生き別れになった自分の母親だったことに気づいたのだった。

この自分の母親だと気づいたときに思わず出た「ハッ」という呼吸。同じタイミングで私も状況を理解して一緒に息を呑み、そのまま幕が閉じる最後まで、まるで私自身がお話の世界の彼になったような気持ちでした。



「鶴八鶴次郎」橘劇団

他の劇団でも貼り出しなどでよく見かけていた外題なのですがなかなか自分が観る日に当たらず、8月の木馬館で初見でした。
鶴八をきよみさん、鶴次郎を大五郎座長が演じていました。以前にも書いたんですが、鶴次郎が鶴八を呼ぶ時の声のトーンがとても優しくて「本当に鶴八を愛しく思ってるんだな」と自然にあたたかな気持ちになったんです。
きよみさんはもちろんのこと、女優陣のまくしたてるようなセリフ回しがとても好きでした。
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(舞踊ショーより、北條きよみさん)

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(橘大五郎座長)
そして印象的なのがラストシーン。
高野山の桜が散る中、若旦那に手を引かれて歩く鶴八。橋で一人、鶴八の三味線を抱えている鶴次郎。このコントラストが2人の思い出の場所である高野山というのがとても切なく、そして壮観なセットの美しさと相まって儚く脆い鶴次郎の心情が浮き彫りになったようでした。



「月夜の一文銭」章劇

これも以前に書いたんですが、正太郎と牙次郎がお互いをどう思っているのかという関係性が明確に伝わってきたことで涙腺がぐずぐずになりました。

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(舞踊ショーより、梅乃井秀男さん)
梅乃井さんの女形はピカイチに美しいのですが、私がお芝居で好きなのはなぜか立役の方なんですよね。牙次郎のような幼さを感じる役も、おにぎりをぐしゃぐしゃに頬張るような美しさからは程遠いおこも役も。

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(澤村蓮座長)
そして懸命に話す牙次郎を優しい兄の顔で見守りながら聞く正太郎(蓮さん)の優しく細められた瞳。
更には世話を見ている牙次郎とその兄貴分の心情を汲んでやる十手持ち(章太郎後見)と若い衆。
理由が有ったとはいえ人を殺めたのは許されることではない。でも、最後の最後に思うようにさせてもらえたのは牙次郎と彼が慕った兄貴の正太郎の人柄が導いたものなんだろうな。




と、こんな感じでした。
今年もすてきな舞台がたくさん観られますように!